【今週のコラム】走れジナンボー、いや走れチョウナンボー

◆優秀な弟を持つ「兄」に自らを投影する

6月11日、東京の新馬戦で、1頭の良血馬が快勝した。その名は「ジナンボー」。あの3冠牝馬アパパネの第2仔である。父親も7冠馬ディープインパクトであり、初戦から1番人気に推されての出走となったが、1度もステッキを打たないまま直線楽な競馬で後続に2馬身半の差をつける完勝だった。

一方その前日に同じ東京競馬場で1頭の3歳馬が走っていた。東京6R3歳未勝利戦に出走したモクレレ。ジナンボーと同じ父ディープインパクト、母アパパネという、いわばアパパネの「チョウナンボー」である。ただ結果は2番人気で5着。デビューが今年2月と遅く、今回2戦目だったが、それでもアッサリ弟に抜かれる形となった。そしてこの状況に、今、私はものすごく居たたまれない気持ちになっているのである。

私事で恐縮だが私にも優秀な弟がいた。子供の頃の学力こそそれほど差はなかったが、運送神経に長けていて、芸術的感性も優れていた。故に女の子にもモテた。そんな弟に対して全てが凡庸で、見てくれも悪かった私は、ただ漠然と羨望の眼差しで彼の背中を眺めていたのを覚えている。そこにかつてカインがアベルに抱いた強い感情はなかったものの、今考えればその火種のようなものはあったのかもしれない。

そんな少年時代を過ごしてきた私だが、ある時場末の地方競馬場で1頭の馬と出会う。その名はサクラリズムオー。母は漫画の主人公の母馬としてもその名を知られる事になったサクラハツユキという良血である。中央時代は13戦1勝と振るわなかったが、その1勝は後のジャパンカップ3着馬ロイスアンドロイスを破ってのもので、能力の高さは証明されていた。ところが私が彼に会った時、彼の左目は白内障を起こしておりほとんど見えない状態だった。それもあってか地方では35戦して僅かに1勝しか出来なかったのである。一方彼が中央から地方へ移籍した頃、中央場で結果を出していた彼の弟がいた。1994年の弥生賞を制したサクラエイコウオーである。クラシックこそ20世紀最高レベルの名馬ナリタブライアンの後塵を拝したが皐月・ダービーという2つのクラシックにも出走しており、かたやGⅠを走る弟の陰で、地方で頑張る兄というところに、私は昔の自分を投影してしまっていたのである。だが、私の思いは、結局彼の成績に反映される事はなかったのである。

わたしはあまり良血馬を応援しない。ただ下に優秀な馬が出てきた馬は別である。私は今後モクレレを全力で応援してくことになるだろう。昔から馬は初仔より第2仔の方が母馬の産道がシッカリ広がって、元気で走る子が生まれてくると言われている。そういう意味で今後もジナンボーはしっかり走り、一競馬ファンとしてもしっかり走って欲しいと思っているが、個人的にはそれ以上の能力をチョウナンボーに見せてもらいたいのである。是非兄の意地を見せてほしい。ただただそう願うのみなのである。

 

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  • 競馬関係者 B
  • FORMER/CLERK 元・厩務員
  • 元・厩務員の競馬コラムニスト。G1を何度も制した美浦の某一流厩舎に籍を置き、低迷の時代から黄金時代までその厩舎の中心で活躍し続けた伝説的存在。引退後は、その経験を主軸にコラムを執筆する。

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